◆気になる言葉たち◆短歌と詩と -4ページ目

指さしながら

幼子が指さしながら嬰児の名を伝へむとしてあたらしき春

佐佐木幸綱さんに選んでいただき、短歌雑誌の活字になりました。


・幼子(をさなご)

・嬰児(みどりご)


自由題です。


昨年末に私としては珍しくかなりの時間をかけてこねくりまわした結果です。


お察しのとおり、年賀状向けに考えた一首であります。



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引き込む力(5)・・名人七分

小工場に酸素熔接のひらめき立ち砂町四十町夜ならむとす


よく知られた写生の歌です。
抑制の効いた歌です。


この歌の構成は大きく分けて前景と主題で成り立っています。
「小工場に酸素熔接のひらめき立ち」・・・前景
「砂町四十町夜ならむとす」・・・主題


前景というと脇役のようですが、そうではありません。
表現の上ではむしろこちらが主役です。
映像がくっきりと浮かびリアルです。
「ひらめき立ち」が効いています。
「ひらめく」の連用形に「立ち」をつづけて複合語を形成し、
盛んにひらめいている様子を描いています。


主題である下句はうすめられています。
前景(上句)を際立たせるためでしょうか、ひかえめです。
多くを語っていません。言葉の意味性を弱くしています。
「砂町四十町」という固有名詞が一役買っています。


この歌を作品にしようと決意したときの作者の感動が主題です。
現在の江東区界隈。東京の下町を歩いていて小さな工場が見えています。
夕日がすこしずつ沈んでいき、空の色もこまかく変化しているでしょう。
このような情景のなかに立つ作者の感慨・感動がこの歌の眼目です。


しかし、その感慨・感動は直接的には何も表現されていません。
そして、直接に心を表現していないからこそ、伝わってくるものがあります。
直接に心を表現していないからこそ、読者がその感動を味わうことができるのです。
感じとることができるのです。


もしこの歌のなかに「美しい」とか「懐かしい」とか「さみしい」とか
作者の主観を直接表現する言葉を入れたとしたら、

即、月並みな歌になるでしょう。
読者が入り込む余地がなくなるでしょう。


過剰な言葉はありません。場面を広くとらず、単純化を徹底しています。
省けない印象の強い重点・中核だけを取り上げています。
「名人七分」とか「名人八分」とか土屋文明はよく言っています。
削ぎ落した末の、まさに名人の一首と言えるでしょう。








引き込む力(5)

この歌になぜ引き込まれるのだろうか・・・

ここに引用し、われわれが考える足場にしたいと考えています。


小工場に酸素熔接のひらめき立ち砂町四十町夜ならむとす


土屋文明 『山谷集』


この歌はなぜ引き込む力を持っているのだろうか?

ご意見のある方はコメントをお寄せください。








引き込む力(4)・・発見としての比喩

ささやきを伴ふごとくふる日ざし遠き紫苑をかがやかしをり


作者の感性が受け取った情景・日ざしを「ささやきを伴ふごとく」
という言葉で表現したこと。


ひと通りの比喩表現を超えている。


表現というよりも発見と言った方がふさわしいだろう。


この発見に膝を打つとともに驚き、引き込まれるのである。



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短詩型の運命

説明すれば散文的になり、省略すれば伝達不可能になる。

そこに短詩型の運命があり、

そこに短歌作者の苦心すべきところがあるはずだ。


(土屋文明)



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引き込む力(4)

この歌になぜ引き込まれるのだろうか・・・

ここに引用し、われわれが考える足場にしたいと考えています。


ささやきを伴ふごとくふる日ざし遠き紫苑をかがやかしをり


相良 宏 『相良宏歌集』


この歌はなぜ引き込む力を持っているのだろうか?

ご意見のある方はコメントをお寄せください。



紫苑とは・・・

http://blogs.yahoo.co.jp/siran13tb/63557661.html


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詩へ

「おかあさん」 子供が私を呼んでいるドロップを舌でころがすように (俵 万智・添削)


おかあさん子供が私を呼んでいるドロップみたいな甘い声で


文字数で言えば約3分の1の違いですが、これだけ変わります。


原作では、大切な下句を 「ドロップみたいな甘い声」、という

常識的な比喩が台なしにしています。


添削では 「ころがす」 という動詞が効いていますね。

常識的・説明的・散文的・・・から飛躍のある「詩」へと昇華しています。



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引き込む力(3)・・観察眼

戸を引けばすなはち待ちしもののごと辷り入り来ぬ光といふは


誰もが戸を開けて同じように経験することですが
このようにとらえることはなかなかできません。


鋭い観察眼です。


光をまるで生き物のようにとらえることによって情景がリアルに伝わってきます。



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引き込む力(3)

この歌になぜ引き込まれるのだろうか・・・

ここに引用し、われわれが考える足場にしたいと考えています。


戸を引けばすなはち待ちしもののごと辷(すべ)り入り来(き)ぬ光といふは


宮 柊二 『獨石馬』


この歌はなぜ引き込む力を持っているのだろうか?

ご意見のある方はコメントをお寄せください。



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人生はゲーム

人生をゲームと言ふは生意気か人のうしろの夕陰長し

栗木京子さんに選んでいただき、短歌雑誌の活字になりました。


題は「ゲーム」です。


スリランカ出身のA.スマナサーラという仏僧がその著作のなかで

「人生はゲーム」と繰り返し述べていて

十年ほど前になりますが強く印象づけられました。


その印象を手繰り寄せて一首に展開しました。



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